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2004.08.05

第18回 「総論」に騙されていないか?

たとえば「中国人はすぐ転職する」という話をよく聞く。現象面を「総論」でとらえれば、確かに私もその通りだと思う。しかしそれはあくまでも「総論」であって、それに簡単に納得して思考停止に陥ってしまっては経営は成り立たない。

かなり古い事例になるが、1994年に日本の大手情報誌会社が北京の有名大学の学生を対象に「中国大学生の就職動機調査」と題するアンケート調査を行った。中国の有名大学の学生ともなれば、最も自分の能力に自信を持っている、転職志向の高い人々であると考えていい。

その結果によると、就職後の勤続意向を問う設問に対して、「できれば最初の会社に一生勤めたい」と回答した学生が男子で16.7%、女子で25.0%いた。この数字を多いと見るか少ないと見るかは意見が分かれるところだろう。

しかし少なくともこの調査結果を見る限り、中国にも全体で2割近い「終身雇用」志向の学生がいることになる。もちろん逆から見れば8割の学生は転職を志向しているということで、もし日本のマスメディアが記事にするとしたらまず「中国の大学生、8割が転職志向」といったところだろう。

しかし考えてみれば中国にはこの当時でも年間50万人以上の新卒学生がいた(現在は大学制度の改革でその数倍の数になっている)。その20%とすれば、10万人近い「長期雇用志向」の学生がいることになる。

だとすれば、もし中国に進出した日系企業の経営者が、長期勤続してくれる学生が本当に欲しいのであれば、この10万人に対して本気でアプローチする方法を考えるべきだろう。中国に進出する日系企業は多いといっても、将来の幹部候補の新卒学生を定期採用するほどの企業規模の会社は何万社もあるわけではない。10万人の候補者がいれば十分なはずだ。

もちろんそうした大学生を集めるには、日本で培ってきた長期安定雇用システムのメリットやデメリット、それを実行する自社の経営理念、人材観といったものを論理的に説明し、学生たちに理解してもらい、企業に魅力を感じてもらうという努力が必要になる。それには非常に大きな労力がいる。

しかし自分たちの目指すものや働き方の仕組み、その中国での有効性を学生に明らかにし、それに賛同する学生を集めるという努力なしに、たまたま縁あって応募してきた学生から適当に選抜し、その結果「すぐに辞めてしまう」と言ってもあまり建設的なやり方とは思えない。

仮に「中国人はすぐ転職する」こととが「総論」として正しいとしても、そうでない中国人を探すことは不可能ではない。「総論」をハナから疑うこともせず、その通りに行動して、「はい、だめでした」というのではあまりに策がない。

(この項つづく)


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